【卒業生インタビュー】医療・福祉×エンターテインメントの挑戦──映画監修を通して子どもたちの可能性を拓く理学療法士の選択 安田一貴(特別対談:中島哲也 監督)

学校法人 岩崎学園では、各校の卒業生に焦点を当てたインタビューを実施しています。今回は、岩崎学園 横浜リハビリテーション専門学校(理学療法学科)を卒業後、理学療法士および写真家として活躍する安田一貴さん(以下、安田さん)にお話を伺いました。

今回は、安田さんが映画『時には懺悔を』において、障がいのある子どもたちの撮影参加を支える「スペシャルニーズスーパーバイザー」として監修を務めたことをきっかけに、同作を手掛けた映画監督・中島哲也氏(以下、中島監督)をお迎えした特別対談形式でお届けします。

映画制作の舞台裏から、医療・福祉職が持つ新たな可能性、そして未来の医療従事者へ贈るメッセージまで、熱く語り合っていただきました。

1枚の写真から始まった、映画制作への思いがけない参画

――まずは、安田さんが今回の映画企画にどのような経緯で関わることになったのかお聞かせください。

安田さん: 私は岩崎学園 横浜リハビリテーション専門学校を卒業したあと、理学療法士としてリハビリの仕事や、重度障がいのあるお子さんの支援活動に携わってきました。それと並行して、カメラマンとして障がいがある子どもたちの写真を撮影する活動もしていたんです。

そうした写真を、たまたま映画の助監督さんが見つけてくださって、「今度映画を作るので、一度話を聞かせてくれないか」と声をかけていただいたのが最初のきっかけでした。

最初にお会いした際、制作チームから「かわいそうな障がい児が頑張るドキュメンタリーではなく、一つのエンターテインメント作品を作る。その中で、障がいのあるお子さんにも他のプロの俳優と同じように、一人の役者として参加してほしいんだ」と伝えられました。

それまでの映画やメディアの扱いとはまったく違う、非常に新しい取り組みですし、純粋に「面白いな」と感じたんです。それで「ぜひお手伝いさせてください」とお返事し、関わり始めたのが2023年のことでした。

――実際の制作プロセスでは、どのように具体化していったのでしょうか?

安田さん: 最初の相談が2023年の8月末頃でした。そこから制作側から「このようなお子さんを探している」という条件や条件リストをいただき、配役のイメージに合い、かつご家族の承諾を得られるお子さんを30人ほどご紹介していきました。「新役はこの子、正樹役はこの子」というように、一人ひとり詰めていく形です。

中島監督: これ、本当にプロの俳優のオーディションとまったく同じプロセスでしたね。

――もちろん演技経験があるお子さんたちではないですよね?

安田さん: ええ、全員が演技未経験のお子さんたちです。こういったお話は、普段からの信頼関係がないと親御さんにお願いするのもなかなか難しいのですが、幸い私には日頃の支援活動や写真撮影を通して関係性を築いていたご家庭が多くいらっしゃったので、一歩踏み込んでお声をかけていくことができました。

「安田さんがいなければ完成しなかった」──監督が明かす舞台裏

――撮影現場で安田さんが担った役割や、意識されていたことは何ですか?

安田さん: 重度の障がいがある子どもたちですから、現場では当然さまざまなリスクに対して細心の注意を払う必要があります。私たち医療の専門職って、どうしてもリスクを先回りして考えて「それは無理です」「危険です」とストップをかけてしまいがちなんです。

でも、監督が妥協なく作品を作りたいと望んでいて、ご家族も「この子と一緒に新しい挑戦をしてみたい」と思ってくださっている。ならば、専門職が止める側に回るのではなく、安全に実現させるためのサポート役に徹するべきだと考えました。止めるのではなくアシスト役に回ることこそが、子どもたちの可能性を開くし、映画にとってもプラスになる。極力制約をかけずに「どうすればできるか」を追求しました。

中島監督: いや、本当にね、安田さんに入っていただけなければ、この映画は完成しなかったと言っても過言ではないですよ。

僕たち映画制作者は、そうした障がいのあるお子さんやご家族の世界と直接コミュニケーションを取る手段を持っていたわけではありませんでした。映画を作ることが決まってから手探りでコンタクトを取ろうとしても、断られたりハードルが高かったりして、出てくれる子どもを見つけること自体が、僕たちには難しいことだったんです。

そこで安田さんが、ご家庭の環境や日常のケアも含めて理解した上で「この子なら協力してくれるかもしれない」と提案してくださった。だからこそ、断られることもなく、役にぴったりハマる子を選ぶことができたんです。しかも、選んだ子に合わせて脚本を書き換えるようなことは一切していません。新人映画俳優をオーディションするように配役を決めることができたのは、すべて安田さんのおかげです。

さらに、安田さんのネットワークのおかげで、現場に医療バスを待機させて子どもたちの体調を見極めながら撮影を進めることもできました。僕が現場でやったことといえば、オーディションで見せてくれた生き生きとした表情や動きを失わないよう、カメラの前でいつも通りの自分でいられる環境を作っただけです。

――子ども達への演技指導というものはほとんどなかったということでしょうか?

中島監督: そうですね。映画で設定した障がいと実際のお子さんの状態にズレがなかったので、細かく指示を出す必要もなかったですし、指示を出してしまうと彼らの伸び伸びとした良さが消えてしまったと思います。

ただ、共演したプロの俳優陣(西島秀俊さん、満島ひかりさん、黒木華さん、宮藤官九郎さん、柴咲コウさんなど)は、相当な刺激を受けていたとおもいます。プロとしての技術や間合いがそのままでは通用しない相手ですからね。非常に密度の濃い現場になりました。

呼称をめぐる議論と、現場に生まれた専門技術の工夫

――現場での調整や工夫の中で、苦労されたエピソードなどはありますか?

安田さん: スタート段階では、ご家庭ごとのご事情を考慮しながら慎重にキャスティングの選別を行いました。親御さんが不安に思われている点と、現場の「こういう質問をしてもいいのか」という疑問の間に入り、細かく微調整を重ねていきました。

印象的だったのは、呼称についての議論です。私の肩書は最終的に「スペシャルニーズスーパーバイザー」となりましたが、当初、障がいを持つキャストに対して「サポートキャスト」という呼称が提案される場面があったんです。でも、「一人の俳優として扱ってほしい」という前提がある中で、その呼び方は矛盾するのではないかと議論になりました。その時、私が意見を言う前に、現場の助監督さんが「それは違うんじゃないか」と異議を唱えてくれて。スタッフの皆さんの意識やマインドが変わっていく過程を一緒に体験できたのは、すごく興味深い瞬間でした。

中島監督: 劇中で子どもたちが体調を崩したり咳き込んだりするシーンの撮影でも、安田さんにすごく助けられましたよね。

安田さん:リハビリの臨床技術(胸郭操作などで痰を排出させるための咳の誘発技術)を応用して、本人の身体に負担や害にならない範囲で、撮影のタイミングに合わせて自然な咳を出してもらうといった工夫をしました。

中島監督: 発熱して元気がない様子の表現なども、細かく指導していただきました。現場には大勢のスタッフや大人がいて興奮してしまい、なかなか寝てくれないこともありましたが(笑)、みんな本当に伸び伸びと参加してくれました。

「私たちが励まされている」──当事者の持つ魅力と可能性

――安田さんが当事者側として今回のプロジェクトに参加を決意された、一番の根底にある想いとは何だったのでしょうか?

安田さん: やはり「当事者の子どもたちを一人の俳優として参加させてほしい」という監督たちの姿勢が大きかったです。

それと、脚本を読ませていただいた時に、物語の終盤に「みんなが新を励ましているんじゃない。新にみんなが励まされているんだ」というセリフがあったんです。それを読んだ瞬間、深く胸に刺さりました。「あ、これって僕自身の人生の感覚そのものだ」と感じたんです。

最終的にその子に救われ、周りの人の人生が変わっていくという物語の落とし所に強く惹かれました。映画の中で出てくるセリフの言葉だけを切り取れば、一見暴言ともとれるような厳しいシーンもあるのですが、そのコントラストがあるからこそ、子どもたちが「光」として描かれているストーリーに強い意味を感じて、お手伝いしたいと強く思ったんです。

映画に参加して改めて思ったのは……私自身、新君とは昔からの付き合いなんですが、彼の周りにはいつも自然と人が集まって、みんな笑顔になっているんです。監督が映画を通して彼の本質的な魅力を見抜いて表現されていたことには驚きましたし、「やっぱりそうだよね!」という感覚でした。

あの子たちには、やっぱり人を引きつける魅力もあるし、すごい力があるじゃないですか。「ほら、そうじゃん!励まされてるのってこっちだよね」っていう。彼らが持っているその魅力や力、可能性って、絶対にあるんですよね。

中島監督: 彼らが持っている魅力や可能性、人に元気を与える力って、普段の生活では一般の方にはなかなか見えにくい部分かもしれません。でも映画をご覧いただければ、障がいというのは決してマイナスではなく、一つの「個性」なんだと伝わるはずです。誰かを幸せにする大きな可能性を秘めていて、それが映画を通して観客の皆さんにも届くだろうなと思っています。

異分野と掛け合わせ、誰かの挑戦を後押しする存在へ

――最後に、岩崎学園で理学療法・作業療法などを学んでいる後輩や学生の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

中島監督: 僕からなんて、そんな大それたことは言えないので(笑)、安田さんどうぞ!

安田さん: はい(笑)。一番伝えたいのは、「専門職が誰かの挑戦のストッパーになってはいけない」ということです。

「こういう表現がしたい」「こんなことに挑戦したい」という強い意思があり、当事者やご家族もそれを希望しているなら、それを安全に実現するためのアシスト役に徹すること。それこそが、医療・福祉専門職の役割だと考えています。

また、理学療法などの医療福祉の世界は、どうしても専門領域の中に閉じこもりやすく、その中で仕事が完結してしまいがちです。しかし今回のように、「エンターテインメント」などのまったく異なる分野と自分の専門性を掛け合わせることで、思いもよらない大きな可能性が生まれます。

母校で学ぶ皆さんも、自分の専門性をしっかり軸として持ちながら、どんどん視野を外へ広げていってください。新しい領域と組み合わせることで、誰かの新しい挑戦や可能性を拓いていける理学療法士・専門職になってほしいと思っています。

中島監督: 僕からは立派なアドバイスなんて言えませんが……単純に、この映画が医療や福祉、介護を目指して勉強している若い人たちにとって、「よし、私も頑張ろう」と思える力の一端になってくれたら本当に嬉しいですね。

映画を見て絶望するのではなく、「自分がやろうとしていること、目指している道は間違いじゃないんだ」と感じてもらえるような、前へ進むエネルギーになれたら、これほど嬉しいことはありません。応援しています。

『時には懺悔を』公式サイト https://www.tokizan.jp

◼︎中島哲也監督プロフィール

映画監督・脚本家
CMディレクターとして活躍後、『下妻物語』(2004年)、『嫌われ松子の一生』(2006年)、『告白』(2010年)、『渇き。』(2014年)、『来る』(2018年)など数々の話題作を手がける。
『告白』では第34回日本アカデミー賞最優秀監督賞・最優秀脚本賞を受賞。最新作『時には懺悔を』では、障がいのある子どもや家族をテーマに、人と命の尊さを描いている。

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