【連載:教育を科学する】第4回 「いい先生に当たるかどうか」を、運で終わらせない
| この記事は、岩崎学園教育システムが教員の指導差を解消するため、岩崎学園は100年の経験知と学習データを「仕組み」として蓄積。AIを教員の支援に特化させ、データに基づく客観的な見通しと教員による温かい声かけで、学生の自律的な成長を支える仕組みを解説したものです。 |
第3回で、本連載の監修者である東京大学の池谷裕二先生と語り合ったのは、「ちょうどよい高さのハードル」という話でした。低すぎれば退屈になり、高すぎれば苦行になる。あと一歩で届く高さを、一人ひとりのために設計する——。
ただ、学校のマネジメントも、教育の現場も、一筋縄ではいきません。いまだに試行錯誤の日々を送る私には、対談のあいだも、頭から離れない問いがありました。
それ、先生によって差が出ますよね。
今回は、この問いを正面から書きます。テーマは「仕組み」です。
1.「担任ガチャ」の話を、正直にします
保護者面談で「特に問題ないですよ」と言われて、ほっとしたような、少し物足りないような。あの気持ちを味わったことのある方は、少なくないと思います。
口に出す方は少ないのですが、保護者の皆様が本当に気にされているのは、たぶんここです。
担任の先生が、誰になるか。
近ごろは「担任ガチャ」という言い方もあるようです。身も蓋もない言葉ですが、心配の中身としては至極当然だと思います。同じ学校の、同じ学科の、同じカリキュラムでも、去年の先生と今年の先生では、子どもの伸び方がまるで違うこともあります。
先に、正直なことを申し上げます。差はあります。ゼロにはなりません。私自身、新任の頃は「気合が足りない」と学生に言っていたような人間でしたから、当時の私に当たった学生には、いまでも申し訳なさがあります。
ここで多くの学校がやってしまいがちなのが、「差をなくす」を目標に掲げることです。これはたいてい、うまくいきません。全員を平均に寄せる方向に力が働くので、いい先生の良さまで削れてしまう。マニュアルを厚くするほど、教育は薄くなります。
私たちが決めたのは、そこではありませんでした。
差をなくすのではなく、下限を上げる。伸びしろは、削らない。
これは理屈から出てきた方針ではなく、現場を調べていて見つかったものです。
2025年12月から2026年2月にかけて、学園内で「学生の動機付けに定評のある教員」22名に、まとまったヒアリングを行いました。学校も学科も違う22人です。話を聞く前は、名人芸のバリエーションが22通り出てくるものと思っていました。
ところが、ふたを開けてみると、多くの教員が、申し合わせたように同じ構造を語ったのです。
全体に向かって話すときは、公平に、厳しく、事実ベースで、淡々と。個別に向き合うときは、柔らかく、その学生に合わせて。
たとえば、課題の締切はクラス全体に一律で求める。けれど、「授業でやったことを、もっと先までやってみたい」と言ってきた学生には、個別に上の課題を渡したり、学外のコンテストや、同じ熱量の学生が集まる場につないだりする。全体の場では同じトーンで伝え、傷つきやすい学生には後から「みんなの前ではああ言ったけれど、あなたの頑張りどころはここ」と補足する——。
誰かに教わったわけでもないのに、学校の壁を越えて共通していました。
つまり、うまくいっている先生は、全体に保証する「最低ライン」と、個別に開く「伸びしろ」を、場面で切り分けている。この二層構造が、名人芸の正体でした。
だとすれば、次の問いは決まります。
この二層を、その人の才能ではなく、仕組みとして持てないか。
今回の話は、全てここから出発しています。
2.「100年分の経験知」とは、要するに「見通し」のことです
岩崎学園は2027年に創立100周年を迎えます。こういう記事では「100年の経験知」といった言葉を掲げたくなるところですが、私はこの種の言葉を、なるべく使わないようにしています。中身を言わずに立派に見せてしまうからです。
そこで、分解します。ベテランの先生の頭の中にあるものは、ありていに言えば、これです。
何が、いつごろ、どのくらいの割合で起きるかの「見通し」。
入学から2か月経つ頃に何が起きるか。連休が明けた週に、教室の空気がどう変わるか。国家試験の3か月前に、どういうタイプの学生が調子を崩しやすいか。ベテランはこれを、驚くほど正確に把握しています。
先ほどのヒアリングで、ある先生はこう表現しました。
「自分の脳内にデータベースがあり、過去に同じような人がいた、こう指導したほうが良い、と考える」
いい言葉だと思いました。ただし、致命的な弱点が2つあります。
ひとつ。その人が異動したり退職したりすると、まるごと消えます。
もうひとつ。本人にも、説明できません。
同じヒアリングで、経験値についての質問への答えは、22人がほぼ一様でした。
「場数で成長する」
これ以上の言葉が、出てこないのです。しかも自己評価を聞くと、複数の先生が同じ物差しを持ち出して、「目標とする教員をレベル5、なりたての自分をレベル1としたら、今は2.5〜3くらい」と答える。動機づけの名人として選ばれた先生たちが、そろって自分を道半ばだと言い、そのうえ上達の道筋を言葉にできない。
これは特定の学校の問題ではなく、教育という仕事の構造だと思います。声かけの名人ほど、「なぜあの場面で、あの一言を選んだのか」を説明できません。心理学では「知識の呪い」と呼ばれる現象(Birch & Bloom, 2007)と地続きで、自分にとって当たり前になった手順は、他人にとっての難しさが見えなくなります。
だから私たちは、この見通しを、人の頭の外に出すことにしました。
そこから先の話が、今回の本題です。
3.気づきは、書かれなければ、なかったのと同じ
「最近、少し表情が硬いかもしれない」が
こういう気づきは、定期試験では得られません。廊下ですれ違ったとき、放課後の雑談、保護者の方との電話連絡。日常の中で、誰かがふと感じ取るものです。
ここが、最初の正念場です。
「気づいたら書いてください」と頼んで、書かれた試しがありません。
これは私の実感でもありますし、教育現場のデジタル化がつまずくとき、かなりの割合でここが原因だと感じています。立派なシステムを入れても、入力が続かない。半年後には、真面目な数人だけが書いている状態になる。
なぜ書かれないのか。逆から考えて、私たちは4つの条件を置きました。これは岩崎学園固有の話ではなく、どんな組織であっても必要なものだと思っています。
気づきが書かれ続ける4条件
① 入力を、新しい仕事にしない。
「時間があるときに書いてください」は、永遠に来ない時間を待つのと同じです。そうではなく、もともとやっている仕事の中に、書く場所を埋め込む。面談で「必ず聞く項目」を決めてしまえば、欄が決まっているので埋まります。会議での共有が、そのまま記録になるようにする。書く「動機」ではなく「動線」に頼る。
② 書いた人に、必ず返す。
自分が書いた一行が、誰の目にも触れずに死蔵されるなら、人は書くのをやめます。逆に、自分の書いた観察が、別の場面で自分に返ってくるなら、書いた甲斐が出てくる。
このあと出てくる図(担任制のデータフロー図)を見ていただくと、同じ担任が、図の中に2回登場します。左半分(INPUT)では学生カルテに書き込む人として、右半分(OUTPUT)ではカルテから受け取る人として。図としては冗長ですが、あれは冗長ではなく、システムが回る理由そのものなのです。
③ 出力を「評価」ではなく「支援」の形にする。
集めたデータが教員の管理や査定に使われると分かった瞬間、都合の悪い観察は書かれなくなります。「クラスの就活に対するモチベーションが落ちてきた」と正直に書ける先生がいなくなったら、そのデータベースは使い物になりません。出力先が学生の支援に限られていることを、設計としても運用としても守り切る必要があります。
④ 最後の判断は、人に残す。
システムが結論まで出してしまうと、現場は入力の意味を失います。判断が自分の手にあるからこそ、材料を集める気になる。——この4つ目が、今回いちばん言いたいことにつながっていきます。
4.なぜ、AIを学生に向けなかったのか

図1|岩崎学園 担任制のデータフロー図 左が入力(INPUT)、右が出力(OUTPUT)。見比べていただきたいのは矢印の向きです。AIから学生へ、直接向かう線が一本もありません。 これは描き忘れではなく、最初に決めた設計方針です。
図を見ていただくと、学生指導AIも、就活サポートAIも、出力の先はすべて教職員です。担任、授業を担当する先生、スクールカウンセラー。AIが学生に直接語りかける矢印は、引かれていません。AIではなく人が、という話ではありません。AIを、学生ではなく教職員に向けた、という話です。
これは、意図してそうしています。理由は3つあります。
理由1(現場での経験知の観点)。学生を動かすのは、最後は人の言葉だからです。
LMS(学習管理システム)を開くと、未提出の課題が赤い数字で表示されます。「未提出 3」。——あの赤い数字を見て、よし今日やろう、と机に向かった学生を、私はあまり見たことがありません。たいていは、そっと画面を閉じます。
ところが、同じ「未提出 3」でも、先生から「あの課題、最初の設問だけでも今日出してみない?」と声をかけられると、その日のうちに出てきたりします。数字は事実を知らせます。けれど、背中を押すのは、人の言葉です。
理由2(学習分析研究の観点)。学習データを本人に直接見せる設計は、思ったほど効かないことが分かってきています。
学習分析(ラーニング・アナリティクス)の分野では、学生本人に学習状況のダッシュボードを見せる試みが長く行われてきました。ただ近年は、その多くが他者との比較を前提にしており、いま伸び悩んでいる学習者ほど意欲を下げてしまう可能性があるという指摘が出ています(Jivet et al., 2018)。
順位を見て発奮できるのは、もともと上位にいる人だけかもしれない、ということです。2024年に発表された系統的レビューも、こうしたダッシュボードが成績や意欲に与える効果は総じて小さいと結論づけています(Kaliisa et al., 2024)。
理由3(教育AI研究の観点)。AIをつくる側からも、同じ方向の指摘が出ています。
教育AI研究者のライアン・ベイカーは2016年に、やや挑発的な題の論文を書いています。「Stupid Tutoring Systems, Intelligent Humans(愚かな学習支援システムと、賢い人間)」。要旨は、AIを賢くして人間の代わりをさせるのではなく、学生に直接ふるまう部分はむしろ単純にしておき、技術の力は人間の判断を助ける情報をつくることに振り向ける——そういう設計のほうが有望ではないか、というものです。
実際、AIが教室で「いま、この生徒を見てください」と教師に示唆を返す仕組みを使った研究では、AIだけに任せた場合よりも学習の成果が高くなったと報告されています(Holstein et al., 2018)。
実のところ、私たちがこの設計にたどり着いたのは、論文を読んだからではなく、現場で「学生に直接返しても動かない」を何度も見たからです。あとから研究を追いかけて、同じところに立っていたと知りました。
5.データが「温かい言葉」に変わるまで
「データを温かい言葉に変える」というのは、詩的な言い回しに聞こえるかもしれません。実際には、かなり地味な工程です。4つあります。
データが言葉に変わる4工程
① 見通し | この時期・この学科では、何が起きやすいか
100年分、卒業生約16万人分の蓄積が担うのはここです。第2節で言った「事前の見通し」。学生を見る前から持っている、確率の感覚です。
② 検知 | 目の前のこの学生に、実際に兆しがあるか
出席のパターン、提出のタイミング、ログインの頻度、面談記録の言葉づかい。ここをAIが担います。「なんとなく気になっていた」が「データが示している」に変わる工程です。
③ ヒント | では、どう声をかけるか
ここが抜けているシステムを、私はたくさん見てきました。困ったことに、データサイエンスの側にいる人間ほど、②で満足しがちです。
けれど現場の教員からすると、②で止まったシステムは、不安を増やす装置でしかありません。「この学生は退学の可能性が高い」という表示は、明日どんな言葉をかければいいのかまでは教えてくれないからです。
だから私たちは、検知とヒントを必ずセットにしました。アラートと同時に、「では、どう声をかけるか」が出るようにしています。
ここが勘所なのですが、このヒントは、二つのものを掛け合わせて作られます。ひとつは、①で触れた見通しのナレッジベース——同じような状況で、過去に何がうまくいって、何が裏目に出たか。もうひとつは、教職員が共有している「10の行動指針」——どう伝えるか、の型です。その一番目は「否定から入らず『共感』から」、十番目は「学生に合った目標を定め、プロセスを褒める」。第2回・第3回で書いてきたことが、そのまま明文化されています。
つまり、「何を言うか」は蓄積から、「どう言うか」は指針から。どちらが欠けても、ヒントにはなりません。事例だけなら、他人の成功談の押しつけになる。指針だけなら、精神論に戻ってしまう。
④ 記録 | 声をかけた結果、どうなったか
この④が、①に戻ります。回るから、見通しが古びない。
「知恵を共有しています」と「見通しが毎年更新されます」は、似ているようで別のものです。前者は状態で、後者は仕組みです。前者は、共有会がなくなった翌年から劣化しはじめます。

図2|4工程のループ図
見通し → 検知 → ヒント → 記録 → そして見通しの更新へ。ヒントは、蓄積(何を言うか)と行動指針(どう言うか)の掛け合わせで作られる。一周するたびに、学校の「勘」の精度が上がる。
6.先生にも、動機づけが必要です
ここからは、私自身が設計したものの話をさせてください。シラバスレビューAIです。
シラバスというのは、授業の設計図です。半期15回なら15回分、何を扱い、学生が何をできるようになるかを書きます。
——現役の教員でもある私がこう書くのもどうかと思いますが、シラバスづくりは、教育現場でもっとも典型的な「やらされ仕事」です。締切があり、様式があり、提出すると誰かがチェックする。年度末の、あの空気。学校で働いたことのある方なら、たぶん今、少し苦い顔をされたはずです。
だから、このAIをつくるときに立てた目標は、品質管理ではありませんでした。
シラバスを書くことを、「義務」から「面白くて熱中するもの」に変えられないか。
先生が面白がって作った授業と、締切に追われて出した授業が、同じ授業になるはずがありません。学生の動機の話は連載でずいぶん書いてきましたが、同じ理屈は、教える側にもそのまま当てはまります。学生の動機づけと教員の動機づけは、教育の両輪です。教える側の動機が上がれば、学生への動機づけはさらに強くできる——そう考えて、この目標を立てました。
以下の設計判断は、すべてここから逆算したものです。
設計1:何を評価するかより先に、どう伝えるかを決めた
フィードバックは、すればするほど相手のためになる——そう考えたくなりますが、この思い込みをひっくり返す有名な研究があります。クルーガーとデニシが1996年に発表したメタ分析です。
フィードバックは平均すれば成績を上げる。ところが、測定された効果のうち3分の1超は、かえって成績を下げる方向に働いていました。のちに教育の場面だけを対象に行われたメタ分析でも、負に振れた効果が17%ありました(Wisniewski et al., 2020)。数字は小さくなりますが、逆効果が一定の割合で起きること自体は変わりません。
クルーガーとデニシは、分かれ目をこう考えました。フィードバックが「課題」に向いているか、「人」に向いているか。受け手の注意が、課題そのものから自分自身のほうへ移るほど、効果は下がっていく——。この見立ては、その後のフィードバック研究にも引き継がれています(Hattie & Timperley, 2007)。
「あなたのシラバスはCです」は、人に向いています。
「第6回の到達点を、こう書き換えると測りやすくなります」は、課題に向いています。
そこで、AIの仕様書に、次の制約を先に書き込みました。
- ・良い点を必ず先に書く。省略は禁止。
- ・「不足しています」と書かせない。「〜を加えると効果的です」に統一する。
- ・指摘には、必ず書き換え例を2案添える。
- ・教育理論の名前を、出力に書かない。
最後のひとつは、地味ですが効きます。「ブルームのタキソノミーに照らすと」と書いた瞬間に、それは助言ではなく説教になるからです。理論は設計者が知っていればよく、受け取る先生に必要なのは、明日書き直せる具体案です。
お気づきかもしれません。これは、私たちが学生に対してやっていることと、まったく同じです。良いところから入る。プロセスを認める。否定から始めない。
設計2:評価を、二段構えにした
ここが、いちばん考えたところです。
このAIは6つの観点で見ます。前半4つ(カリキュラムとの整合、目標と評価の一貫性、各回の到達点の明確さ、授業の組み立て)はA〜Dで評価します。四つ目は、学習意欲の設計について書かれたARCSモデル(Keller, 1987)を下敷きにしていますが、先生に返す文面には、その名前は一度も出てきません。
後半2つ——「教えるのではなく気づかせる工夫」と「楽しみながらの創意工夫を誘発する仕掛け」——には、あえて点数をつけませんでした。代わりに、成長の段階で返します。
🌱 種まき → 🌿 育成中 → 🌸 花開く → 🍎 実りの時
理由は単純です。点数は「やらされ」を強化するからです。
外から評価され、監視されるほど、内側から湧いてくる動機は下がりやすい——これは自己決定理論の研究が繰り返し示してきたところです(Deci & Ryan, 1985; Deci, Koestner, & Ryan, 1999)。守ってもらう必要のある最低ラインには、はっきり線を引く。けれど、そこから先の伸びしろに点数をつけたら、その瞬間に熱中は消え去ります。
第1節を思い出してください。動機づけの名人たちは、全体には厳しく公平に、個別には柔らかく接していました。あの二層構造を、そのままAIの仕様に写し取ったのが、この二段構えです。

図3|シラバスレビューAIの出力抜粋 レビュー全文(必須4観点はA〜Dで評価、オプション2観点は点数をつけず成長段階で返す)から、後者の1観点を抜粋。指摘は必ず授業回を名指しし、「例えば」の形で届く。
設計3:あえて、軽いモデルで動くように作った
このシラバスレビューAIを動かしているのは、Claude Haikuという、速くて軽いモデルです。技術的には、もっと上位のモデルを使って、一部の科目を精緻にレビューする選択肢もありました。それをしなかったのは、コストの問題ではありません。
一部の科目にしかレビューが届かないなら、それは属人化の作り直しだからです。
熱心な先生の科目だけが良くなる。それでは、私たちが壊そうとしているもの(先生によって学生の体験が変わること)を、別の形で再生産することになります。全科目・全教員に同じレビューが届いて、はじめて学校全体の最低ラインが上がる。だから、速く安く回ることを、性能より優先しました。
そして、まだできていないこと
うまくいっていない部分も、隠さずに書いておきます。
内側から湧く動機には、3つの要素が要ると言われます。自分で決められること(自律性)、伸びている実感(有能感)、そして人とのつながり(関係性)です。
このAIは、前の2つには手が届きました。提案はあくまで提案で、採否は先生が決める(出力の最後に「先生のご判断でお使いください」と必ず書かせています)。🌱から🍎への段階は、伸びの実感を返します。
足りていないのは、3つ目の「関係性」です。 いまのところ、このAIと先生は一対一で向き合っているだけで、先生同士がつながる設計になっていません。ある先生の🍎の工夫が、隣の学科の先生に伝わる仕組みが要る。ここが次の宿題です。
——第3回で、池谷先生とこんな話をしました。同じ困難でも、「やらされている」と感じた途端に苦行になり、「自分で挑んでいる」と思えた瞬間にクエストに変わる、と。
シラバスづくりでも、同じことが起きています。第3回で学生について語ったことを、今度は教員に向けて実装してみる——今回ご紹介したのは、それが確かに機能した、という事例です。
もっとも、先ほど書いたとおり足りていないところもあり、道半ばであることに変わりはありません。学生に対してそうであるように、教員に対しても、私たちはまだ試している最中です。
7.おわりに
2027年に、私たちは創立100年を迎えます。2029年には、みなとみらいに新しいキャンパスが開設されます。
もっとも、100年で溜まったものは、感動的な物語だけではありません。地道に立ててきた見通しです。この時期にはこれが起きる、こういう学生にはこう声をかけるとうまくいきやすい、という、実直な蓄積です。
私たちがやろうとしているのは、その見通しを、次の100年に持ち越せる形にしておくことです。誰か一人の頭の中ではなく、誰が来ても使える形に。
そして、AIの時代にあっても、データを温かい言葉に変えるのは、人にしかできない大切な仕事なのです。
【参考文献】
・Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychological Bulletin, 119(2), 254–284.
・Hattie, J., & Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112.
・Wisniewski, B., Zierer, K., & Hattie, J. (2020). The power of feedback revisited: A meta-analysis of educational feedback research. Frontiers in Psychology, 10, 3087.
・Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior. Plenum Press.
・Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668.
・Keller, J. M. (1987). Development and use of the ARCS model of instructional design. Journal of Instructional Development, 10(3), 2–10.
・Baker, R. S. (2016). Stupid Tutoring Systems, Intelligent Humans. International Journal of Artificial Intelligence in Education, 26(2), 600–614.
・Holstein, K., McLaren, B. M., & Aleven, V. (2018). Student learning benefits of a mixed-reality teacher awareness tool in AI-enhanced classrooms. In Artificial Intelligence in Education (AIED 2018), LNCS 10947 (pp. 154–168). Springer.
・Jivet, I., Scheffel, M., Specht, M., & Drachsler, H. (2018). License to evaluate: Preparing learning analytics dashboards for educational practice. In Proceedings of the 8th International Conference on Learning Analytics and Knowledge (LAK ’18) (pp. 31–40). ACM.
・Kaliisa, R., Misiejuk, K., López-Pernas, S., Khalil, M., & Saqr, M. (2024). Have learning analytics dashboards lived up to the hype? A systematic review of impact on students’ achievement, motivation, participation and attitude. In Proceedings of the 14th Learning Analytics and Knowledge Conference (LAK ’24) (pp. 295–304). ACM.
・Birch, S. A. J., & Bloom, P. (2007). The curse of knowledge in reasoning about false beliefs. Psychological Science, 18(5), 382–386.
【注釈】
※ 学生カルテの運用にあたっては、個人情報保護方針に基づき、厳格なセキュリティ対策を講じております。記録の利用範囲は学生の支援目的に限られます。
※ 本文中の教員の発言は、2025年12月〜2026年2月に学園内で実施した「動機付けに定評のある教員」ヒアリング(22名)の記録によるものです。
※ 教職員の「10の行動指針」の全文は、岩崎学園公式サイト「岩崎学園の教育」ページ(https://www.iwasaki.ac.jp/education/)に掲載されています。